遺言書がない場合には、原則として、法定相続分にしたがって相続財産を分けることになります。実子の兄弟だけが相続人ということであれば、均等に分けることになります。

それでは、ある相続人だけが、生前に高額な学費を出してもらっていたり、土地をもらっていたりした場合であっても、均等に分けることになるのでしょうか。
このような事案がありましたので、ご紹介します。

Xさんが83歳で亡くなり、その相続人として、長男のAさん、次男のBさん、長女のCさんの3人がいらっしゃいました。
長男のAさんは、幼い頃からXさんにとても可愛がられて、4年生の大学、さらには、2年間の大学院にまで進学し、その学費全額を出してもらい、また、その後も、Aさんが新居を建てる際や自動車を購入する際には、相当額の援助をしてもらっていました。

その一方で、BさんとCさんについては、Xさんから、跡取りではないから、嫁に行ってしまうのだから、などと言われて、高校までしか進学させてもらうことができませんでしたし、独立したあとも何ら援助してもらうこともありませんでした。

BさんとCさんとしては、その当時は、それでも仕方ないと思って過ごしていたようなのですが、Xさんの法要の際に、Aさんから、自分が長男なんだから、すべての相続財産をもらう、そのようにXさんから生前言われているんだ、と言われてしまったのです。

さすがに、BさんとCさんも、それではあまりに不公平ではないか、何とか公平に分ける方法はないかと思い、弁護士のところにやってきました。

そこで、弁護士から、次のようなアドバイスを受けました。
まず、このような場合、Aさんが言うように、Xさんが生前にAさんにすべての財産をやると仮に言っていたとしても、遺言書がありませんから、Xさんの生前の言葉にしたがう必要はありません。

そうすると、法定相続分にしたがって、均等に分けることになるのかというと、そうではありません。
形式的に「均等」に分けようとすると、かえって不公平な状態のまま分けなければならなくなってしまいますので、法律(民法)では、ある相続人が生前に贈与を受けていた場合には、原則として、相続分の前渡しを受けていたとして、その人の相続分を減らすことにしています。

もっとも、例外として、Xさんに、他の相続人よりもAさんに余計に財産を与えたかったという意思があるのであれば、相続分を減らさなくてもよいとされていますが、そのような意思があったとかどうかは、書面がない以上は、はっきりしません。
したがって、BさんとCさんの場合も、Aさんが相続分の前渡しを受けていたと主張して、その分、Aさんの相続分を少なくしてもらうことができます。

そのようなアドバイスを受けて、BさんとCさんは、弁護士に依頼をし、家庭裁判所の遺産分割調停、審判の手続きのなかで、その主張が認められ、公平に分けてもらうことができました。