相続人は、被相続人の配偶者と、被相続人の兄弟姉妹などでした。その人数は、合計14名です。
 相続人一人を残して、その他の方々は、配偶者が全遺産を取得することに異存はありませんでした。また、非常にまれな例ですが、その承諾を取り付けるのに、承諾料(いわゆる判子代)などの提供も不要でした。

 しかし、相続人の一人が遺産分割協議への参加を固辞しました。この方が、なぜ固辞されるのか、理由は不明でした。
 本件では、遺産として、不動産と預貯金がありましたが、配偶者は、不動産(2件の持ち家)と預貯金の全部取得を希望していました。

上述のように、12名は、相続分を配偶者に譲渡することを了承していました。
そこで、承諾を得られない一人の方(法定相続分は100分の1でした)に対しては、代償金提供を申し出るとともに、相続登記、預貯金の相続手続きへの協力を文書で要請しました。
配偶者は、兄弟と共に、固辞された方を訪問しましたが、面談することはできませんでした。

そこで、遺産分割調停を申立てました。
申立代理人の弁護士は、相手方の住所地を訪問し、調停へ出頭するよう促しましたが、やはり面談することができませんでした。
また、家庭裁判所の調査官も、直接訪問しましたが、面談することはできませんでした。
結局、この相続人は、調停に出席することもありませんでした。
そこで、遺産分割調停は相手方不出頭により不成立とされ、遺産分割審判に移行しました。

遺産分割審判の対象は、本件では、不動産だけとなりました。預金(預金払い戻し請求権)は分割債権ですので、相続分に応じて、相続人が当然に取得し、相続人全員の同意がない以上、遺産分割審判の対象となりません。

そして、配偶者は本件不動産全部の取得を希望しておりましたので、代償金の算定のために、不動産価格の鑑定の申請を行いました。
不動産価格の鑑定、代償金支払の意思の確認、代償金負担能力の確認がなされ、配偶者が不動産を取得する旨の審判がなされました。

審判については、相手方は不服を申し立てず、確定し、確定した審判に基づき、不動産登記名義の変更、代償金の供託を済ませました。
また、各金融機関に対し、相続分に応じた支払い請求を行い、審判書を参照してもらい、100分の99についての支払いを受け、遺産分割を終了しました。
ここまで、弁護士に依頼してから、約1年でした。

 本件の場合、被相続人は、配偶者に全部を相続させる旨の遺言、とくに公正証書遺言を作成しておけば問題のない事案でした。
 なぜなら、兄弟姉妹には遺留分がありませんので、本件のような事態を回避できたからです。